制作会社と連絡が取れない、自社で更新できないサイトを引き継ぐ手順
社名や電話番号を1行直したいだけなのに、依頼してから数日待たされる。前任者はすでに退職し、当時の制作会社は担当者が変わったのか返信が来ない——。この状態になると、多くの会社が真っ先に「作り直すしかない」と考えます。しかし実際には、作り直しても同じ状態が数年後に再発することが少なくありません。原因はサイトの中身ではなく、誰が何を握っているかという管理構造のほうにあるからです。まずやるべきは制作の相談ではなく、棚卸しです。
作り直す前に取り戻す「4つの鍵」
サイトの主導権は、デザインやCMSの種類ではなく、次の4つを誰が持っているかで決まります。これが全部そろっていれば、制作会社が誰であっても乗り換えは可能です。逆に、1つでも欠けていると、新しく作り直しても公開に至りません。
特に見落とされがちなのが、独自ドメインのメールです。会社のメールアドレスがサイトと同じサーバーに相乗りしている場合、サーバー契約が止まった瞬間に、サイトどころか業務連絡が止まります。緊急度はこちらのほうが高いことがあります。
現状を確認する際は、次の順で調べてください。社内の稟議書や請求書のファイルに、当時の契約情報が残っていることもよくあります。
- ドメイン:登録者名義は自社か、制作会社か。更新料は誰に請求されているか
- サーバーとDNS:契約アカウントは自社で持っているか。管理画面に入れるか
- CMS:管理者権限のアカウントがあるか。権限が「編集者」止まりになっていないか
- ソースコードとデータ:本番以外に、テーマやテンプレート、画像の元データがどこにあるか
- 独自ドメインのメール:サイトと同じ環境か、別のサービスか
- 計測とサーチコンソール:所有権が自社アカウントに紐づいているか
角を立てずに引き継ぎを依頼する、現実的な進め方
連絡が取れる相手であれば、まずは書面(メールで十分です)で、必要なものを箇条書きにして依頼します。「引き継ぎたい」という言い方より、「社内の管理体制を整えるため、名義とアカウントを自社に寄せたい」という切り口のほうが、話が進みやすい傾向があります。実際、制作会社側も引き継ぎ範囲を契約書で定めていないことが多く、悪意ではなく前例がないだけ、というケースがかなりあります。
相手が廃業している、あるいはどうしても連絡がつかない場合は、経路が変わります。ドメインは登録事業者(レジストラ)に、サーバーは契約している事業者に、それぞれ自社が正当な利用者であることを示して手続きを相談する流れです。会社名義の請求書や支払い記録が証拠になります。
それでも取り戻せない場合の最終手段は、新しいドメインまたは新しい環境での再構築です。ただしこれは費用も影響も大きいため、先に上記2つを尽くしてから判断してください。
「自社で更新できない」の正体は、CMSの有無ではない
「WordPressが入っているのに更新できない」という相談は非常に多いです。理由はだいたい3つに分かれます。制作時にデザインを崩さないため編集領域が固定されている、更新対象のページだけがCMS管理外の固定ファイルになっている、あるいは手順が前任者の頭の中にしかない、というものです。
ここで大事なのは、全ページをCMS化する必要はない、という点です。実際に更新が発生するのは、お知らせ、実績、料金表、採用情報、担当者名くらいであることがほとんどです。年に一度も触らないページを編集可能にしても、管理項目が増えるだけで誰も得をしません。
過去1年間に「直したい」と思った箇所を書き出してみてください。その一覧が、そのままCMS化すべき範囲になります。
次の保守契約に、必ず書いておくべきこと
同じ状況を繰り返さないために、保守契約で決めておく項目はほぼ決まっています。金額の多寡よりも、範囲と出口が書かれているかどうかが重要です。
特に、契約終了時の引き渡し条項は、契約を結ぶ時点でしか交渉できません。困ってから相談すると、相手には応じる義務がありません。
- 保守に含まれる作業と、都度見積もりになる作業の具体例
- 対応時間帯、連絡手段、一次回答の目安
- バックアップの取得頻度・保存世代、そして復元を実際に試すかどうか
- CMSやプラグインの更新を誰がいつ行うか
- ドメインとサーバーの名義(自社名義を原則にする)
- 契約終了時に引き渡すもの一覧と、その期限
移行のときに、いちばん壊れやすいもの
環境を移す、あるいは作り直す場合、技術的に壊れやすい箇所は毎回ほぼ同じです。URL構造が変わったのにリダイレクトが設定されておらず、検索経由の流入が消える。フォームの送信先が旧担当者のアドレスのまま残る。計測タグが移植されず、数か月分のデータが欠ける。過去に配布したPDFのURLが変わり、名刺やカタログのQRコードから404に飛ぶ。
URLが変わる場合の転送については、Google Search Centralがサイト移転に関するドキュメントを公開しています。実装方法は環境によりますが、旧URLから新URLへ恒久的な転送を設定するという原則自体は共通です。
そして最後に、正直な話をひとつ。中身の情報が今も正しく、見た目にも大きな不満がないのであれば、リニューアルではなく管理権限の移管と保守体制の見直しだけで終わることがあります。デザインを一新するかどうかは、鍵を取り戻したあとで、落ち着いて判断すれば十分です。
よくある質問
ドメインが制作会社名義でした。取り戻せますか。
多くの場合、登録事業者を通じた手続きで自社名義への変更が可能です。会社としての支払い記録や契約書類が根拠になります。まず現在の登録情報を確認し、そのうえで制作会社、応じてもらえない場合は登録事業者に相談する順序が現実的です。
作り直したほうが早いのではないでしょうか。
ドメインとサーバーが自社名義に戻っていない状態で作り直しても、数年後に同じことが起きます。順序としては、鍵の回収が先、作り直しの判断は後です。逆に鍵さえ戻れば、作り直さずに済むケースもあります。
社内に技術担当がいなくても運用できますか。
更新箇所を絞り、手順を文書化しておけば、専任の技術者がいなくても回る範囲は十分にあります。ただしサーバーやCMSの更新、障害時の対応は外部に任せる前提で設計したほうが安全です。
引き継ぎだけを依頼することはできますか。
可能です。現状の調査と、ドメイン・サーバー・CMS権限の整理までを対象にした相談として受けられます。その結果、作り直しが不要と判断できることもあります。
現状の調査だけのご相談も受けています。何が自社名義で、何が他社の管理下にあるのかを整理したうえで、作り直しが必要かどうかを判断していただけます。Karkium Webは海外からリモートで対応しており、日本国内に拠点はありません。訪問での立ち会いが必要な作業は対象外になる点を、最初にお伝えしています。